日本の夏。~緑川ゆき「蛍火の杜へ」



緑川ゆきという漫画家は、空気を描くのが上手だと思う。
洗練された絵ではないし、台詞も固くて好みではないのだけれど、新刊が出るとついつい買ってしまう。
「これこれ、こういう少女漫画が読みたかったんだよ」と思える作品を描いてくれるからだ。
それに、作者あとがきなどを読んでいると、漫画に対して真摯な気持ちで取り組み、常に成長していこうとしている人柄が垣間見れて好感が持てる。

「蛍火の杜へ」は4つのお話が収録されている短編集だ。
やっぱり一番心に残るのは表題作。

夏の日、森で迷子になった六歳の蛍が出会ったのは、狐の面をかぶった青年・ギン。
彼は人に触れると消えてしまう、妖怪のような存在だった。
決して触れることのできない二人は、夏になる度に会うようになる。

触れてはいけないからこそ触れたいと願う気持ち。
毎年、背丈がギンに近づくごとに大きくなる蛍の思い。
蛍が成長していくにつれて、膨らんでいくギンの焦燥。

たった一度きり、最初で最後の抱擁。

あかん…今読み返したらまた泣けてきた…

コントラストの強い、「日本の夏」の情景が物語に彩りを添える。
やっぱりこの話は、夏が舞台でなければ成立しないと思う。

蛍はきっと、この先また別の恋をするのだろう。
けれど時々、夏の森で過ごしたかけがえのない時間を、懐かしく思い出すんだろう。
消えてしまって今はどこにもないものでも、それは決して「なかったもの」にはならないのだから。


他に収録されている中に、兄妹どうしの恋とも呼べないような交感の話もある。
今は結構、禁断なんてぽーんと飛び越えてしまう風潮だけれど、こういう始まりもしないようなプラトニックな物語はやっぱりいいものだ。

がっつりエロな少コミ系マンガも嫌いなわけじゃないけど、こういう少女漫画をこそ手元に置いておきたいと思う。
だって女の子(注・24歳)だし。


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