もう、夢中 ~森絵都「DIVE!!」上・下

ダイブ
「少年はその一瞬を待っていた。」という一文で始まる。
風を読み、時をはかり、断崖絶壁から、鳥のように海面へと飛翔する少年。
物陰からそれを見つめ、「見つけた……」「まちがいない。この子だわ」と呟く一人の女。


…ベ、ベッタベタ!
いかにもな冒頭シーンに、血が騒がない者がいようか。
誤解のないように慌てて付け加えるが、決してけなしているわけではありません。
筆力のない人間が書けば途端に陳腐になってしまいそうだが、森絵都が書いているので問題ない。
それは物語全体にも言えることで、王道で、スポ根(死語?)で、真っ正直に青春なこのお話を、読者の期待を裏切ることなく、いやいや期待以上に描き切ってくれている。


高さ10メートルの飛び込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛び込み競技。(裏表紙あらすじより)
知名度も低く、自分との孤独な闘いを強いられるこの競技に魅了された中高生の少年たちが、奇才の女コーチや周りの人たちに時には反発し、時には支えられながら、オリンピック出場を目指す。

「ダイヤモンドの瞳」を持つ無心の天才、知季。
飛び込み界をしょって立つ、筋金入りのサラブレッド要一。
津軽の海で培われた、豪快で美しいダイブをする飛沫(しぶき)。
この3人が、三者三様の持味を生かして、勝つために、クラブを存続させるために、何かをつかむために、自分自身のために、飛ぶ。


3人ともそれぞれ魅力的なので、誰かお気に入りを1人選ぶのは難しい。
この3人以外でなら、レイジかなあ。
あと、息子の要一に対して常にコーチの立場を崩さずにいた敬介さんが、父親の顔に戻っちゃうシーンが大好き!

特に下巻の後半部分、決勝戦での息をもつかせず繰り広げられる展開は、見事としか言い様がない。
目まぐるしく変わる視点、先の予想がつかない序盤の滑り出し、それぞれの「FINAL STAGE」の緊迫感と震えが来るほど強烈なカタルシス。
何なんでしょう!すばらしすぎる!!


…ちょっと興奮しすぎた。
アドレナリンがスゲーぜ(「今日から俺は!」)。
この小説には我を忘れさせる何かがある。

端々にあるちょっとニヤッとするような日常の描写も面白い。
決勝戦で出てくるライバルたちも、描写が少ないながらいい味出している。
で、またこれも、ラストがすごくいいのです。
映画でいうと、笑顔でエンドロールに突入する感じだ。
口元に笑みを浮かべつつ本を閉じる。

老若男女すべての人に、全力でオススメします。


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vol.25「 DIVE!! 」森 絵都
Excerpt: 「このクラブから次期オリンピック選手が出なきゃ、ここは潰れます。だからオリンピック目指しましょう」 ——というわけでオリンピック代表選手の座を競うことになった知季、飛沫、要一、3人のメイン主人公たち。..
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Tracked: 2009-12-28 18:10