タイトルに偽りなし ~岸本佐知子「気になる部分」

気になる部分
この岸本佐知子というお方、ただものではないと思う。


例えば、こんな一文で彼女のエッセイは始まる。


「祖母の家に“お泊まり”するのは楽しかったが、枕の中に日本兵がいるのが少し嫌だった。」


「私は誰にも内緒で口の中に小さな蛙を飼っている。」


「『粒タイプ』のガムがこわい。」


眠れなくて「ひとり尻取り」を実践してみたところ、熱中しすぎて昼間はひたすら夜にそなえて語彙の増強につとめるという、本末転倒の状態になったり、「男性の乳首は何の役に立っているのか」を真面目に考察したり、「髪」に比べて「毛」の地位が低いと憤ったり、満員電車での闘いにおける兵法というものを伝授してくれたり、マイナーな人々について思いをはせてみたり、透明人間と宣告された場合の対処法について述べたり、ええっと、きりがないのでこの辺にしておく。


岸本さんは色んなことが気になってしまうらしい。
しかもそれは、本来なら気にしなくても生きていくのに何ら差し支えのないことばかりだ。
一度気になり出すと、そこからどんどん妄想が始まっていく。
そんなバカな、と思いながら、そういえば私も子どもの頃は同じようなことを考えていたと気づく。


「自分は人間ではなくて、本当は猿なのではないか?今こうして自分の見ている世界は自分だけの妄想なのではないか?」という不安で小さな胸をおののかせていた幼少時代の岸本さんは、そのまま幼少時代の私でもあったはずだ。
私の場合は、「もし近くにエスパーがいて、今考えてることが全部ばれていたらどうしよう」とか、そんなのだった。


色んなことが気になる岸本さんのことが、私は非常に気になる。
これは図書館で借りて読んだのだけど、自分で買いなおしてもいいくらい気に入った。
エッセイの域を越えて、よくわからない世界へ跳んでいっている。


そんな岸本さんの本業は翻訳家だそうで。
原著→翻訳というワンクッションがどうにも気にかかって、外国文学を読もうと思えなかったのだけど、こんな人の訳した本なら読んでみたい。
だって、普通の話になるわけなさそうだから。


この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

気になる部分:久しぶりに声を出して・・・
Excerpt: だいぶ以前、「ねにもつタイプ」というエッセイを紹介したことがあります。 そのエ...
Weblog: はてさてブックログ
Tracked: 2008-05-16 10:17