ひとつだけ ~辻村深月「冷たい校舎の時は止まる」上下巻

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辻村深月のデビュー作。
この作品でメフィスト賞を受賞し、辻村深月は世に現れ出でました。


雪の降るある日、いつものように登校すると、校内にいたのはふだんから仲のよかった八人の生徒だけ。
他の生徒や教師が来る気配もなく、校舎から出ようとしても何故か出られず、時計の針はある時刻を示し続ける。
閉じ込められた八人の脳裏に浮かぶのは、二ヶ月前の学園祭最中に起こった同級生の自殺事件。
だが、死んだその同級生の顔も名前も、誰一人思い出せないことに気づく。
自殺したのは誰だったのか? その人物が彼らを閉じ込めているのか?
クラスメートのことを忘れてしまえるほど、自分たちは薄情だったのか?
時を止めた学校という小さな世界で次に時計の針が動くとき、一人、また一人と閉じた校舎から消えていく。


これ、今回が二度目の再読です。
前はノベルス版を図書館で借りて読みました。文庫版が出たので改めて購入という、いつものパターンです。
にもかかわらず、「自殺したのは誰か」という種明かし部分を綺麗さっぱり忘れていました。
もうひとつのトリックのほうは覚えていたんだけど。
なので、初読のときと同じように「う~、誰なんだぁ~」とヤキモキしながら読みました。
推理ものを読むときは、忘れっぽさも役に立つんだな…(他で役に立ったことないけど)


でも、そういいつつも、「犯人(今回の場合は自殺者)は誰か」という謎解きについては、実はあまり興味がない。
それよりも、それぞれの事情を抱える高校生――クラス内では少し目立つ位置づけかもしれないけど、でもその辺にいそうな高校生たちの内面に、とにかく惹きつけられて仕方がない。
彼らの生い立ち、記憶、傷跡、自己嫌悪、恋心、憧憬、後悔と拠り所と希望。
なんて瑞々しく、鮮烈に、残酷に、優しく、描かれているんだろう。
一クラス30人、40人の中にともすれば埋没してしまう、その一人一人の内側には、こんなにも深く大きな世界がひとつひとつ広がっている。


充の「責任を負うのが怖くて他人を傷つけることができない」という感情や、清水の自意識の在りよう、交友関係に臆病になる気持ちに、特に共感した。
私は清水みたいに努力家ではないけど。


清水視点の鷹野は本当にかっこいい。
リレーのエピソードは、かなわないや。やられました。って感じだった。


痛みを痛みとして胸に住まわせたまま、彼らは高校を卒業して大人になっていく。
もう戻ってこないもの。取り返しがつかず変わってしまったもの。
少し寂しく、少し悲しく、けれどもそれを受け入れる懐の深さと、希望の在り処をこの作品は示してくれている。
ああ、よかった。大丈夫、きっとうまくいく。私たちは笑い合える。
そんなふうな読後感を抱く。
ラスト、鷹野は何を思い、そして「彼女」は何を思ったのだろう。鮮やかに情景が浮かびあがってくる最後でした。


川原泉の解説もよかったな。
描く漫画の作風そのままなお人なんだなぁ、という文章で。


ところで、この作品には、作者と同じ名前を持つ「辻村深月」というキャラクターが登場します。
ミステリ系の作品にこういうのが多い気がするけど、何で登場人物の名前をそのまま筆名にしたり(もしくは筆名を登場人物の一人に名付けたり?)するんだろう?
だからといって、そのキャラクター=作者というわけではないし。
どういう理由からそうするんだろう…? わからん…


この記事へのコメント

  • みお

    三森様

    こんばんは。最後の記述で「法月綸太郎」が頭に浮かびました(苦笑)結構ありますよね、こういうの…

    三森さんの読書の「量」にも「幅広さ」にもいつも感服しております。私も割と読む方なんですけど、分野が決まってると言うか偏ってると言うか…三森さんのサイトに出会ったのもある本を検索してる中での事で、それ以来覗かせてもらってるわけですが、本当に「素晴らしい!」の一言に尽きますね。

    漫画でも小説でも、活字なら何でも好きなタイプの人間ですので、こういう「自分が知らなかった」本の紹介に出会えるのは非常に毎日の楽しみとなってます。

    最近コメント連投してて申し訳ないですが…何かスミマセン!(恥)
    2007年10月18日 21:20
  • 三森紘子

    みおさんへ

    こんばんは、コメントありがとうございます!
    法月綸太郎もそうなんですか!知りませんでした。本当に結構多いんですねー。
    必然性があるからそうしてるんでしょうけど、その理由がわからないのでモヤモヤします…

    いえいえ!私もすごく偏った読書傾向です。読みたいものにしか手をのばさないし、本屋もいつも決まったコーナーしか覗きませんし…
    そんな風に言っていただけると、嬉しい反面「ス…スミマセン」という感じです(笑)
    みおさんの「こんな本面白かったよ」というのがあれば、こっそり教えていただけるととても嬉しいです☆

    コメント連投、めちゃくちゃうれしいっすよ!ものすごい励みになってます!
    かといって、無理に連投してくださらなくても大丈夫ですのでね(笑)また気の向いたときにコメントしてやってください。
    ありがとうございます!
    2007年10月18日 22:40

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