セーラー服で滑り込み ~神楽坂淳「大正野球娘。」

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どうせタイトルの「野球」につられたんだろうと言われるとぐぅの音も出ませんが、同じぐらい「大正」「娘」の部分にもつられました。
弱いんだ、大正モダンとか、女学生とか、はいからさんとかそういう単語に…
これは何かのニュースサイトで取り上げられていたのを見て興味を持ち、運よく図書館に入っていたので借りてみたものです。


タイトル通り、大正時代の娘さんたちが野球をするお話。
名門女学院に通う十三~四歳の乙女9人が、「女性は家庭に入るべき」と当然のように口にする男に一泡吹かせるために、野球の試合で勝とうと決意する。
とはいえ、今ほど野球がポピュラーなスポーツでなかった時代のこと、ルールもわからない、どんな道具を使うのかも知らない、そもそも実際の野球を見たことがない者がほとんどの状況。
けれど、可憐な容貌の下に強かな精神を持っている彼女らは、あの手この手を使って特訓を始めます。


表紙のイラストを見ると、萌系ライトノベル系な作品を予想するけれど、実際に読んでみるとライトノベルよりは児童文学・ヤングアダルトに近いような印象を受ける。
のどかな、おっとりした雰囲気の文体がなんだか心地よくて、好き嫌いが分かれそうな感じではあるけど、私は結構好き。


大正時代の風俗が描かれているのも楽しいです。
西洋の文化を取り入れる「欧化」が叫ばれているけれど、まだ過渡期なので、女学生たちもセーラー服だったり和装(袴!)だったり個人差があって、掃除の時間にはブルマーの着用を奨められているけど(和装の人は免除)、潔く穿く人もいれば、恥ずかしくてスカートの下に穿く人もいて、でもそれだとスカートがモコモコしてしまって不格好だし…みたいな。
いつの時代も悩みは一緒なんだ! と思った。私も中学生のころはブルマ姿になるのが死ぬほど嫌で、ギリギリまでジャージのズボンを上に穿いていたよ。
なんでよりによって激しい運動をする体育の時間に、あんなほとんどパンツと同じ面積の布地しかないものを着用しなければいけなかったのだろう…。しかも女子だけ。


で、そのセーラー服のまま野球をするので、当然ユニフォームを着た球児のように前のめりに走ることはできません。小梅さん曰く「だって、普通に走るとはしたないでしょう?」
だから、重心を後ろにして、すべるように走ります。これだとスカートもめくれ上がったりしないし、速度も出るのだそうです。
ヘッドスライディングなんてもっての外です。膝から滑り込んで、ベースに正座です。
メンバーには、工学博士を父に持つ娘さんがいるので、今でいうピッチングマシーンや、なんと巨○の星の養成ギプスのようなものまで登場。
他にも、鍛練のため人力車を引いたり、捕球の練習に落ちる葉っぱを箸でつかんだり…なんか、ヘンな感じに楽しいぞ。


登場するのは良家の子女と呼ばれる娘さんばかりなので、みんな基本的におしとやかだし、言葉遣いも綺麗だし、親とも敬語で話す。
その歳で許婚とかもいるし。小梅と三郎の初々しいラブっぷりにはもうニヤニヤする。
でも、ティーンエージャーらしい可愛さもちゃんと持っていて、それが、由緒あるお家をしょって立つ身の責任や女性であることの誇りと同居していて、大変素敵な乙女たちであると思います。


ただ、これ、話がきちんと終わっていないのがどうかと思う。
書かれているのは試合本番の前日までで、続きの話が第二弾として出る予定ではあるらしいけど…ここは、一冊でしっかり終わらせてしまったほうがよかったんじゃないだろうか。
だって…そこまですごく名の売れた作家さんでもないし…続編を出せるほど売れるとも限らないし…余計なお世話か…。
てっきり試合の結末までを書いてくれるんだと思って読んでいたから、「あれ?」って肩すかしくらったみたいになっちゃったのもあるかもしれない。
探してみたけど見当たらなかったし、続編はまだ出ていないのかな。
出たら読みます。乙女たちがどんな風に戦うのか見たいもの。


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