人間の不思議をめぐる旅 ~山下和美「不思議な少年」1~6巻

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背表紙を並べたときの存在感がお気に入りです。
一冊あたり約300ページだもんな…


コメントでおすすめいただいていたこの作品をやっと集められましたー!(ぬま。さんありがとうございました!!)
ご覧のとおりの分厚さと、実際の分厚さ以上に読み応えのある作品で、全部読むのになかなかの時間がかかってしまいました。


一話完結の各話に共通して登場するのは、永遠の命を持った少年。
時空を越え、姿を変え、ときには深く干渉し、ときにはただ見守り、少年は人間の営みを眺め続ける。
「人間ってなんなんだ…」その答えを捜しながら。


少年は一体何者なのか、という疑問もあるのだけど、それ以上にこんな漫画を描くことのできる山下和美という人は一体何者なんだ!? と問いたいです。
一話読了するたびに、しばし言葉を失う。だから面白さを言葉で説明するのは、私にはとっても難しい。
でもひとつ思ったのは、これを読むことで得られる感動は、漫画という表現方法ならではのものなんじゃないかなぁということだ。


たとえば3巻収録の第八話「末次家の三人」には、少年のこんな言葉(モノローグ?)が登場する。


気の遠くなるような
確率の末に僕たちは

何百億の
何十兆もの
奇跡の末に……

僕たちは

……
食卓を
囲んだんだ
……



今にも家族を失おうとしている末次家のお父さんの心に強く響いた、キーポイントとなる言葉です。
この言葉自体にもそれなりの説得力はある。けれどもやっぱり、どこかで聴いたような言葉の組み合わせであり、そこまで物珍しいものでもない。
それを山下和美は「漫画という表現方法」を使って、ものすごく効果的に演出している。


「あの日○○していたら、○○していなかったら」という数えきれない「もしも」の断片を濁流のように散りばめ、その渦の行き着く先、次のページをめくった先には、真っ白な見開きに「僕たちは」とたったひと言ある。
さらに次のページ、これも真っ白な見開きの隅のほうに食卓を囲む三人の姿が、小さく小さく描かれている。
ありふれた食卓の光景が、何百億、何十兆もの確率の末に生まれたものなのだというごく当たり前の「奇跡」を、見事に表現していると思う。本当に素晴らしいと思います。


これは、漫画というジャンルでないと描けなかったと思う。
小説でも映画でも、また違ったやり方で同様のテーマを表現することはできるだろうけど、それはまた別の感動だ。
私がこの漫画を読んで得た感動は、他のものではきっと代えがきかない。



「既刊6巻までの中で一番好きな話」をひとつ選ぼうと思ったのですが、ひとつに絞るなんて絶対ムリなので、「巻ごとで一番好きな話」を選んでみました。(それでも絞るの大変だった…)★1巻★
・第三話「狐目の寅吉」
野武士集団の頭目として一生を終えた、寅吉という男の話。
この話、信仰にすがる者を「生きながら死んでいる者」として、悪党の寅吉を「生きている者」として描いているのですよね。
地獄も極楽も存在しない、人は死んだら消えて終わりだ、死ぬのは怖いかいと少年に訊かれ、怖くないと答えて目を閉じた寅吉の顔を、「生きた者の顔だ……」と言い表した少年。
満ち足りた表情でこと切れた寅吉の死体を見つけた人々は、一体何を思っただろう。
あと、寅吉が男前です(笑)。


★2巻★
・第七話「レスリー・ヘイワードと山田正蔵」
世界中で殺人が一件もなかった日。それが「奇跡の日」になるのだということに戦慄した。
さらに、起こり得た殺人は「真実を見る」ことで防ぐことができたなんて…と、何とも悲しい気持ちになりました。
少年がこんなにも必死になって奔走しなければ、人間は真実を見ることすらかなわないのか。


★3巻★
・第八話「末次家の三人」
上記でさんざん書いたのでもう繰り返しませんが、ふたたび出会う奇跡をお父さんが手にすることができて、本当によかったです。


★4巻★
・第十二話「水晶玉の猿」
猿という名の大道芸人の話。
まるで人間のように、笑い泣く少年の姿を見ることのできる話でした。
少年ですら計ることのできなかった猿の生き様は忘れがたく、とても魅力的なキャラクターだった。


★5巻★
・第十八話「昭とたけしとヨシ坊と」
52年ぶりに再会した、四人の「少年」たちの話。
「幼い頃の約束をずっと覚えている」というシチュエーションがすごい好きです。
だって自分だけ覚えてるんじゃだめなんだもん。みんながみんな忘れずにそんな昔のことを覚えてるのって、それもやっぱりひとつの奇跡だと思う。
あと、キャラクターに歳を取らせるのが上手いなぁ! と思った。ちゃんと、「このキャラが歳を取ったらこんな顔になる」という風に描かれてて。


★6巻★
・第十九話「NX-521236号」
太陽系外惑星の地球化のために作られた、100万体のロボットの話。
人型のロボットたちがとても可愛らしく、切なかった。
少年のしたことは、自己満足でしかないのだと思う。
でも、少年だけはそこで起きたことを知っている。ロボットたちが壊れて、サンドラが死んでも、少年は彼らのことをずっと覚えている。
それって…それって、なんだか無性にさびしいなぁ…



これ以外にも好きな話がいっぱいありました。ありすぎて困ります。一巻ずつ感想を書きたかった。
正直、けなすところが見つからない(笑)。まごうことなき傑作だと思います。
6巻が出たのはついこの間だから、7巻はまだまだだろうなぁ…


それにしても、モーニングツーには面白い作品が本当にたくさん連載されてますね。
定期購読したいくらいです。アフタヌーンだけで手いっぱいなのでムリそうですけども。


この記事へのコメント

  • ぬま。

    わわわわ~~
    全巻お買いになってたんですね~~??
    不思議な少年は語れる方が少ないので三森さんの感想は宝物です!!
    そして私のうなずき回数が臨界点を突破いたしました!

    というか本当に三森さんはいつ本を読んでらっしゃるんですか・・・?

    おお振りと少年は本当に読み応えがあって好きです。
    いつも新刊を買うと「ああ!早く先を読みたいけどでも!でもじっくり読みたい~~!!」
    という矛盾と戦っています。

    どんどん、ある意味で人間らしくなっていく少年を見て切なくなります。
    だって知れば知るほど轢かれていっている。
    いっそのこと興味がなくなったほうが少年には幸せなことなのかと考えてしまうほど少年が好きです!

    そして5巻の博士の回で「誰しも一度は少年とあっているのではないか」という部分を読んで
    少年って奇跡とか転機とか勇気とかそのものなのかとも想ってしまいました。

    三森さんの感想が読めて幸せでした!
    あたしの感想もしゃしゃって描いてしまいましたが、少年を読んでいただけて嬉しかったです^^

    これからもよろしくおねがいします^^
    2008年03月18日 03:05
  • 三森紘子

    ぬま。さんへ

    コメントありがとうございます!
    本ですか…えーっと、いつも読んでます(笑)読んでないときのほうが珍しいです(笑)
    昔に比べて読むペースが遅くなってきたので、常に供給が飽和状態なのがつらいところですが…

    「不思議な少年」、とても読み応えありました!
    確かに、一気に読んじゃうのがもったいない感じですよねー。いろんなことを考えながら読みました。
    私も少年が好きです。神様みたいに神々しいときの少年より、びっくら焼きをおいしそうに食べたり、好きな人間が死んだことに涙したりする少年のほうが好きです。
    彼に向けられた「君は永遠に死を知ることは出来ない」というソクラテスの言葉が切ないですね…

    「少年って奇跡とか転機とか勇気とかそのものなのか」
    ! なるほどー! ものすごく腑に落ちました!
    ほんとにそうなのかもしれないですね。私も少年に会える/会ってたのかな(笑)

    こんな感想しか書けませんでしたが、喜んでいただけたならうれしいです☆
    おすすめ本当にありがとうございました! 読んでよかったです。また何か面白い本があったら教えてくださいね~!(笑)
    こちらこそ、これからもよろしくお願いします^^
    2008年03月18日 18:16

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