猫・義母・花粉・赤い櫛 ~「寺山修司未発表歌集 月蝕書簡」

0508


 幻燈のひなたぼこりに一匹の猫がけむりとなるを見ており



寺山修司が好きです、とか言ったら怒られそうなくらい、彼について詳しくないです。
映画「草迷宮」と、武田真治が出てた「身毒丸」と小劇場でやってた「花札伝綺」と、いくつかの著作を読んだことがある程度。句集も読んだ覚えが一応ある。
そんな体たらくですが、こっそりここで「好き」と言うことを許していただけるとうれしい。


タイトルにあるように、寺山修司が書きためていた未発表の短歌を集めたものが本書です。
著者がすでに故人になってから刊行された本って、もしかしたら人に見せるつもりのなかったかもしれないものを盗み見てるようでちょっとドキドキする。
でも生前の寺山氏は「月蝕書簡」というタイトルまで決めていたそうなので、発表する意向はあったんでしょうね。推敲が足りてないものもあるみたいだけど。


解説で佐佐木幸綱氏が「一首に物語的奥行きを持たせるうたい方」と書いておられるけれど、それこそが演劇や映画などの物語をつくり続けた寺山氏の短歌がもつ最も大きな魅力なんだと思う。


 面売りの面のなかより買い来たる笑いながらに燃やされにけり



本書の一番初めに収められているこの歌。この歌を目にした瞬間から、私の意識は別世界に飛ばされる。
其処はうつし世でもあの世でもない、寺山修司の中だけにある夢想世界である。


彼が自らの夢想をかたちにできる人でよかった。
そこに私は追従させてもらって、身を任せて何だかわかんないとこまで行けちゃうから。自分一人では絶対に行けないとこまで。


没後二十年余りを経ての「新作」がうれしくて、つい図書館で借りてしまいました。未読の既刊作品がまだまだあるくせに。



 かくれんぼの鬼のままにて死にたれば古着屋町に今日もくる父


 父と寝て目をあけている暗黒やたった一語の遊星さがし


 まなざしが一羽の蝶となりてゆく迷路あそびのゆきどまり春


 王国を閉じたるあとの図書館に鳥落ちてくる羽音ならずや





トリップしそう。


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