目をひらいて見届ける ~近藤史恵「サクリファイス」




ずっと気になっていて、文庫化された機会に読んでみました。
いい評価も聞いていたし、自転車レースが舞台という設定も物珍しかったので。



単なるスポーツ青春小説ではないことは、タイトルからも想像がつきますが…
この展開には驚いた。そして、心の奥から湧いてくる感情を押さえられませんでした。
なんていう世界なんだ。なんて、烈しい――あまりいい言葉が見つからないけど――ところに身を置いているんだ、この人たちは。



ロードレースが極めて特異な「団体競技」であるということも、この本で初めて知りました。
一人のエースを勝たせるために、他の全員がアシストに回る。
アシストは、エースの勝利のために、ときには自らを犠牲にする。すぐ前を走って風よけになったり、わざと前に飛び出して敵チームを撹乱したり、エースのタイヤがパンクしたときは自分のタイヤを差し出したり。



知らずにレースを見ていたら、私も自転車を始める前のチカと同じように、「八百長じゃないのか」「なんか納得いかない」と思っただろうな。
でも、自転車競技ファンは、そこのところをちゃんと理解していて、記録に名前が残るのはエース一人だけれど、それに貢献したアシストも、同じように称えられる。
なんだか、無性に実際のロードレースを観たくなってきました。



サクリファイス(犠牲)というタイトルの意味。
「勝利は、ひとりだけのものじゃないんだ」という作中人物の言葉の意味。
どうして、こうなってしまったんだろう。何が決定的だったんだろう。どこで変えられたんだろう。
でももう、私はただ目をひらいて、チカのこの先の戦いを観続けるしかない。
だって、読んじゃったから。知ってしまったから。



近藤史恵さんの小説は、アンソロジー等で短編をいくつか読んだことがあったと思うけど、本作で一気に魅了されてしまいました。
続編らしい「エデン」も絶対読みたいです。外伝が収録されているという「Story Seller」も!


 



この記事へのコメント

  • みか

    over drive という漫画も自転車レースのおはなしです。もし興味がありましたらこちらも面白いと思うのでどうぞ!
    2010年05月06日 17:19
  • 三森紘子

    みかさんへ

    コメントありがとうございます!

    >over drive

    タイトルは聞いたことがありますが、読んだことはありませんでした。自転車レースに興味が湧いてきたので、ぜひ読んでみたいと思います!
    お勧めくださり、どうもありがとうございました^^
    2010年05月06日 21:34

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『サクリファイス』 近藤史恵・著|自転車レースが舞台の"青春スポーツミステリ"
Excerpt: 著者が近藤史恵で、タイトルが「サクリファイス (犠牲)」とくれば、きっと悲惨な物語だろうと 思いきや、なんと青春スポーツミステリ なのだった。偏見癖を直さないといけないなあ。 なにしろデビュー作..
Weblog: 23:30の雑記帳
Tracked: 2010-06-12 23:30

サクリファイス/近藤史恵
Excerpt: ぼくに与えられた使命は、エースが勝つために尽くすこと―。 勝つことだけを求められる陸上の世界に、居心地の悪さを覚えていた誓はロードレース界のアシストとしてチーム・オッジに飛び込んだことに、またエースで..
Weblog: ◆小耳書房◆
Tracked: 2010-07-05 01:22