どうぞ泣いてください ~伊藤滋之「あの実況がすごかった」





 山本 東京・千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします。



この一文を見ただけで、古くからのサッカーファンはいつの何の試合の実況なのか、わかるんだそう。
(正解は1985年ワールドカップメキシコ大会アジア最終予選韓国戦、NHK山本浩アナウンサー)
スポーツTV中継の「実況」に焦点をあてた本です。



そんなにスポーツに詳しいわけではない私も、TVでスポーツ中継を観たことぐらいはありますが、
そこに必ず付いてくる実況というものに、これまで注意を向けたことがありませんでした。
でもこの本を読むと、「そうそう! そうだよね!」「聴いたことある!」「ナイス実況…!(涙)」と一人で大興奮。
無意識に聴き流していたアナウンサーの方々の実況の声が聴こえてくるような気がして、何度も感極まって涙ぐんだ。



中でも印象的だったのは、2004年アテネ五輪、体操で金メダルを獲った日本チーム演技の際の実況です。
実況はNHK刈屋富士雄アナウンサー、解説は小西裕之氏。



おそらく最も多くの人が耳にしたのは、冨田洋之選手の演技のフィニッシュの場面で発せられた「栄光への架け橋だ!」という実況かと思いますが、
著者の伊藤さんはその後の解説者とのやりとりこそがハイライトだと書いています。



 刈屋 小西さん、どうぞ泣いてください。小西さんの目から大粒の涙がこぼれてきました。
     その小西さんが銅メダルを獲ったあのソウルオリンピックを観て、オリンピックに憧れた世代!
     ジュニアから、日本伝統の美しい体操という基本をしっかりと積みあげてきた若者たち、オリンピック発祥の地・アテネで、再び世界の頂点に立ちました!



冨田選手たちが憧れたというソウルオリンピック、そのソウル五輪に日本代表として出場していた小西さんは、二本がずっと果たせなかった夢をかなえてくれた後輩たちの姿に、何かを言おうとしたが嗚咽で言葉にならなかった。
その姿を傍らで見ながら、刈屋アナのこのコメント。
もらい泣きせずにはいられませんでした。



実況って、すごい。
ときにはその場の熱狂をお茶の間に届けて、ときには視聴者の気持ちに寄り添って、またときには思いもよらない感動を生んでしまう。
今までよりもずっと、スポーツ中継を観るのが楽しみになりました。



本書ではたくさんの実況の言葉が紹介されていますが、その中から少しだけ抜粋。(一部解説もあり)



 青嶋 私たちはこの、ヨーロッパとアジアの架け橋、トルコ・イスタンブールで、いま、この瞬間、トルコ時間の夜23時、11時5分、ものすごいものを見せられています。


 平川 ああっと、あ、あ、あ、コースを、コースを間違えている!
     ああっ、なんと、國學院、トップで走っていましたが、コースを間違えた!


 工藤 高いぞ! 立て、立て、立て、立ってくれ! 立ったーっ!
     ものすごいジャンプできました!


 田畑 そして北島も、北島も、ここからあがってくる。
     さあ、北島あがってきた! 北島があがってきた! 北島があがってきた!
     メダルへ! 最後の5mだ! 北島、タッチ勝負だ!


 松木 なんで、オフサイドだろ。オフサイドだろ、これ、オフサイド。
     オフサイドだよ、オフサイド、オフサイドですよ。
     オフサイドですよね。オフサイドですよ。オフサイドでしょう。オフサイドですよ。



いつの何の実況(解説)か、全部わかりましたか?(笑)
気になった方はぜひ読んでみてください。



 

この記事へのコメント

  • 透析鉄

    松木さんはいつでも無駄に熱いですね(笑)。
    名実況といえば、古くは戦前ベルリンオリンピックの競泳平泳ぎの、前畑選手のが、なんか私も知っているくらいに有名ですね。
    NHKのアナウンサーがあまりにも興奮してしまい、確か「前畑がんばれ」を20回以上連呼し、見事一着になった後は、「前畑やった、やった」を、これも20回くらい繰り返したそうです。
    当時は当然ラジオしかありませんので、アナウンサーも我を忘れてしまったのでしょうね。
    実況中継では、競馬のそれが一番難しいとも聞きます。
    ある民放の、大ベテラン女性アナウンサーが競馬実況に挑戦したら、結局ほとんど実況できず、要は、最後に、茶色い馬が一着になりました、としか言えなかったそうです。
    非常に上手な方でしたので、やはり相当な訓練が必要なのだろうなぁと痛感しました。
    2012年05月23日 21:53
  • 三森紘子

    透析鉄さんへ

    コメントありがとうございます!
    (誤字直しました、すみません汗)

    >ベルリンオリンピックの競泳平泳ぎの、前畑選手

    「前畑がんばれ」の実況は、この本でも紹介されていましたよー! そんなに有名なんですね!
    状況を視聴者に伝えるという意味での正しい実況ではなかったかもしれませんが、聴いた人が皆同じ気持ちで応援したくなるような熱い実況ですよね^^
    生で聴いてみたかったような気がします。

    >実況中継では、競馬のそれが一番難しいとも聞きます。

    ああ、確かにそうかもしれないですね!
    どの馬・どの騎手がどのレーンを走っているか、レース前にしっかり頭に入れておかないといけませんし、レース自体もあっという間に終わっちゃうし…(笑)
    名実況者のあの瞬発力は、普段のたゆまぬ努力と準備あってこそのものなんでしょうね。
    2012年05月24日 20:56
  • 透析鉄

    若干補足を。
    競馬実況担当アナウンサーは、中継の前日に自ら騎手の勝負服の色を塗り、馬と騎手の名前を頭に叩き込むそうです。
    TVの競馬実況では、杉本清さんというアナウンサーが大変に有名な方でしたね。(彼もこの本に出ているかもしれません)
    ギネスブックに掲載されている一番の早口の記録も競馬中継のアナウンサー(おそらくラジオ)で、1分間に200語以上は英語で喋ったそうです。
    確かアメリカの中継だったと思います。
    2012年05月25日 20:39
  • 三森紘子

    透析鉄さんへ

    コメントありがとうございます!

    >杉本清さん

    この方もたぶん、競馬実況といえばこの人!という感じで紹介されていたと思います(もううろ覚えですが…)

    本当にエキスパートという感じですね!
    正確さだけでなくスピードも要求されるんですね。1分間に200語ってすごい…
    無性に競馬中継を観たくなってきます(笑)
    2012年05月27日 10:40
  • ようやく読みました(透析鉄)

    だいたいコメントした通りです(^_^;)
    確かに実況中継等を見ていないと、詳細は分かりにくいですね。
    いわゆるドーハの悲劇、私も中山雅史(ゴン)が同点ゴールの瞬間に倒れ込む映像と共に、未だに鮮明に記憶しています。
    スポーツの中継を見て寝つけなかったのは、未だにあの時だけですね……。
    2013年03月22日 21:58
  • 三森紘子

    透析鉄さんへ

    お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。
    コメントありがとうございます!

    おおっ、ついに読まれたんですねー^^
    ドーハの悲劇、私はリアルタイムで観ていなかったんですが、実際に体験した人はきっと忘れられない出来事だったと思います…。
    2013年04月03日 20:15

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