万華鏡の幻想 ~皆川博子「倒立する塔の殺人」

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わたしたちは、切り花なのだ。空想――あるいは物語――という水を養いにしなくては枯れ果ててしまう。しかも、その水には、毒が溶けていなくてはならない。毒が、わたしたちの養分なのだ。



作中人物の一人・三輪小枝の独白は、そのままこの作品を象徴しているように思える。


皆川博子の「甘美な毒を含む幻惑的な物語世界」(著者紹介文より)は、陶酔して浸りきることができるときもあるけど、毒にあてられてリタイアしてしまうときもある。
そのときの精神状態に左右されやすい気がする。(代表的な作品を何冊か読んだことがあるだけですが)
図書館の新着コーナーでこの本を見つけ、久しぶりに読んでみようと思った理由のひとつは、強く目を惹く美しい装丁。ひとつは、「倒立する塔の殺人」という魅惑的なタイトル。もうひとつは「ミステリーYA!」という中高生向けのシリーズから刊行されていたこと。
皆川博子が少年少女に向けて書いた小説ってどんなのだろう? という興味から借りて帰りました。


舞台は戦時中・戦後のミッション系女学校。
母と妹を失った阿部欣子は、同級生の三輪小枝の家に間借りすることになり、彼女から一冊のノートを渡される。
手書きの美しい蔓薔薇模様で彩られたタイトルは「倒立する塔の殺人」。
それは、三人の少女が回し書きした小説と、彼女らの手記から構成される物語であった。


設楽久仁子から上月葎子へ、上月葎子から三輪小枝へと受け継がれた物語は、未完のまま。
物語の結末、そして上月葎子の死の真相を読み解いてほしいと、小枝は欣子に言う。


阿部欣子、三人の手記、小説内小説「倒立する塔の殺人」、それからもう一人の人物と、視点は幾重にもかさなりひろがり、あらすじ紹介にあるとおり「万華鏡のように美しい」幻想的な世界が作り上げられている。
小花模様(ジャスミン?)の型押しがされた遊び紙や中表紙も、ところどころにあらわれる挿画も、世界観の構築に一役買っている。
さらに、現代ではあまり使われなくなった美しい日本語で書かれた物語。
ああ、これは、誰か早熟な少女の宝物として鍵のかけられた抽斗にしまわれていてほしい小説です。


ミステリ仕立てのストーリーにもしっかりと決着がつき、それでいて幻想的な雰囲気は壊されずそのままにある。
敗戦とともに価値観が一変した時代背景も、「S」という少女どうしの秘めた関係も、私にはなじみの薄いものなのだけれど、限定された誰かのために文を綴るという行為は今も昔も、同じ悦びに満ちているのだなと思う。
交換日記、流行ったもんなぁ…。くだらないことばかり書いていたけど。


表紙の三人は、三輪小枝・上月葎子・七尾杏子の綺麗どころかな?
美しい彼女たちの「切り花」のような生き方にも憧れを見るけれど、大地にがっしり根を張って生きる阿部欣子のたくましさもとても好きだ。

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