宴の締めには腹鼓 ~森見登美彦「有頂天家族」

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くつくつ、くふくふと笑いながら読む。なんとなく「平成狸合戦ぽんぽこ」のナレーションの名調子を想起しながら読む。
そう、今回は狸が主人公の物語です。遅ればせながら本屋大賞ノミネートおめでとうございます。ようやく図書館から回ってきたので読みました「有頂天家族」。


森見登美彦にハマるかどうかは、文体にハマるかどうかだと思う。
文体がダメだという人には、「何が面白いのかわからない」と言われたりする。
「何がって…全部」としか言えないので、話し合いは平行線のまま交わらない。これは如何ともしがたいのでしょうがない。


語り手をつとめるのは糺の森に住む狸、故・下鴨総一郎が三男、下鴨矢三郎。


 父亡き後、(中略)「あの下鴨総一郎の血を受け継ぎそこねた、ちょっと無念な子どもたち」という我々に対する世間の評価は定まった。
 それを小耳に挟んだ長兄はその憤懣やる方なく、八つ当たりに岡崎公園の松に巻かれた菰(こも)を剥がして廻り、「必ず父上を超えてみせる」と右の拳を固く握った。次兄は「そんなこと言われたって、知ったこっちゃない」と井戸の底でぷうっと泡を吹き、私はとっておきの美味しいカステラを食べて腹を膨らまし、弟は「お母さんごめんなさい」と小さく丸まって、これもやっぱりカステラを食べた。



彼ら狸はいろんなものに化けて、人間社会にしばしば顔を出す。矢三郎は頭ぼさぼさの「腐れ大学生」、その母はタカラヅカ風美青年「黒服の王子」の通り名を持っている。
人間に化ける狸がいるならそりゃ天狗もいる。鼻っ柱ばかり強いまま落ちぶれてしまった老天狗や、人の身でありながら天狗よりも天狗らしい妖艶な悪女もいる。
そんな有象無象の輩が、京の街を舞台にどんちゃん騒ぎを繰り広げる。


中でも下鴨家の末っ子・矢四郎のかわいさは筆舌に尽くし難い。
マジで(*´д`*)←こんな顔にならざるを得ない。
「尻尾丸出し君」だの「ちん(くしゃみの音)」だの「フカフカした尻尾」だの「兄ちゃん、ごめんよ。恐くてもう化けてられない」だの、どこを切っても金太郎飴のごとくかわいさが現れるので困る。いや、困らない。かわいい。


馴染み深い京都が舞台なので、二割増しで楽しい。
レストラン菊水と東華菜館の間の四条大橋を通るたび、やや蛇行する寺町三条のかに道楽の四つ辻を通るたび、阿呆でかわいらしい狸たちや高らかに笑う弁天様がいやしないかと空を見上げてきょろきょろしてしまう。
今吹いたこの突風はよもや矢二郎の化けた偽叡電ではなかろうかと。
(ちなみに私は大風が吹くといまだに「あ、今ねこバスが通ったのかも!」と思う癖がついている。お前いくつだよ)


ラストで八坂神社に初詣に出かけ、何を願うのかと問われた矢三郎は、「取り立てて願うこともないですなあ」と答える。
「とりあえずみんなが生きており、とりあえず楽しければよいだろう。」
その生き方に大いに賛同したい。


ただ、まとめて読むとちょっと飽きてくるかも。
思うにこれは連載スタイルで、「さあ、狸矢三郎の運命や如何に!?」と毎回続きを楽しみにしながら読み終えるのが一番合っているんじゃないだろうか。全体的に活劇チックなのである。
続編がマコトに楽しみであります。

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