人生は即興芝居 ~恩田陸「猫と針」



「こんなふうに、誰にも気付かれず、みんなに見過ごされて、なかったことになって忘れられていくことってどのくらいあるんだろうね。」



「人は、その場にいない人の話をする。」
喪服を着た男女5人が部屋の中で話をしている。
彼らは葬式帰りであるらしい。彼らは30代で、高校時代の同級生であるらしい。
死んだのはやはり彼らの同級生であるらしい。彼らが話しているのは、その場にいない人の話、らしい。


「演劇集団キャラメルボックス」という劇団のためにかきおろされた、恩田陸の初戯曲作品。
実は昨年、東京まで上演を観に行きました。
なので、そのときの芝居を思い出しながらこれを読んだわけで、この戯曲単体が面白いのかどうかは正直よくわからない。戯曲は読み慣れていないし。
でも言えるのは、「恩田陸の書いた戯曲だなぁ!」ということ。台詞から展開から何から、すべてが恩田恩田している。


あとがきでも、周りから「小説っぽい」「小説を書く人の芝居」とさんざん言われた、というようなことが書いてあった。
実際に、同行した芝居好きの友人も、「やっぱり『初めて書いた戯曲』って感じ。元々小説家の人だから、言葉の選び方が芝居っぽくない」と言っていた。
その友人の感想は若干否定的なニュアンスを含んでいたのだけど、それがいいことなのか悪いことなのか、芝居に対して門外漢の私にはよくわからない。
単純に、「恩田陸の世界が動いてる~!」という感動だけで興奮したし、楽しめました。


キャラメルボックスのお芝居を観ること自体が初めてだったので比べられないけど、元々この劇団のカラーというのは全然違う爽やかなものであるらしいです。
劇団のファンの方はどういう感想を持ったんだろう。


解決したようで何だかモヤモヤが残る終幕。
登場人物の一人が言うように、「そして人生は続く」。わかりやすい「解決」なんて本当はないのである。


タイトルから先に決まっただけあって、「猫」も「針」も内容には直接関係ないけど、めちゃくちゃ不穏な組み合わせでよいタイトルですね。


「葬式って、一種のコスプレなんだな。」
「喪服は舞台衣装?」
「実際、演技するもんな。」
「そう。主役は亡くなった人のほう。あたしたちは脇役。みんなで悲しみと記憶を共有する。共同幻想、一種のファンタジーね。」
「ドキュメンタリー風の、ね。」



役者でなくても、人はさまざまな場面でそのときにふさわしい自分というものを演技している。
台本ナシの即興芝居。生きるってとってもスリリング。

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