立ちどまらない ~森絵都「ラン」



これのおかげで、この数日間は移動時間と昼休憩時間を本当に楽しく過ごすことができました。
おもしろかった。止まんないんだもん、あ、これがランナーズハイってやつ?(違うか)。


タイトルから勝手に、「一瞬の風になれ」(佐藤多佳子著)のような正統派青春スポーツ小説を想像してたのだけど、読んでみるとファンタジックでユニークな話で、ほんといい意味で裏切られた感じ。
「DIVE!!」じゃなくて、「カラフル」のほうに近いイメージです。


近しい人間を早くに亡くし、二十歳のときにおばさんを亡くしてひとりぼっちになった環。
二十二歳のとき、仲良くなった紺野さんというおじさんが営む自転車屋の猫・こよみが死んだことで、ますますあの世を身近に感じるようになった環は、ある日紺野さんにもらった自転車・モナミ一号に乗って疾走するうち、不思議な体験をする。


設定はユニークだけれど、テーマはとても真摯で深く、前向きで力強い。
生きていくなかで誰もが避けて通れない、「心が飛び散るような別れ」というものを「受けとめ」て、「乗りこえ」るということを、マラソンという題材を使って鮮やかに書いている。
これを読んで「私もマラソンを始めよう」とは思わないけど、「これからも生きていこう、とりあえず生きよう」と、気持ちが明日に向かうのを感じる。
それはラスト一行に象徴されるように、森さんが「走りつづける」ことと「生きつづける」ことを同等のものとして書いているからなんだろうな。


環の一人称で紡がれる物語はとっても読みやすくて、本当にスルスル読めるのだけれど大事な言葉は通り過ぎずに残っていく。
久米島マラソンを目指して一緒に走るようになったイージーランナーズの面々はみんな個性的で面白くて、その中でも「ババア」(笑)もとい真知栄子さんは強烈。
近くにいられるとすんごい疲れそうだけど、元気をなくされるとこっちまで悲しくなってしまう、不思議な女性です。醤油一升飲んじゃったり。「アシックス」の一言で復活したときは大笑いしちゃったよ。ほんとにかなわないなあ。


ラストまで読んでも全然、終わった気がしない。
事実、久米島マラソンがスタートしたところで「終」になってるから、話的にも途中なんだけど。
でも、考えてみればこの一冊は、環の人生(第二の?)が始まるまでの物語なのだから、終わるはずがないんだった。
環はもう「立ちどまらない」んだから、終わってないんだよね。だから一応読み終わりはしたけど、私の中では終わっていません。


「後ろ向き」な理由でマラソンを始めた環が、後ろを振り返らなくなるのじゃなく、後ろにあるものすべてと一緒に前へ進んでいくようになるまでのお話。
環と紺野さんの往復書簡、うれしくて泣きそうになった。一往復分しか書かれなかったけど、この先も何度も何度もやりとりをするんだろうな。それとも、毎日が充実しすぎて手紙を書くヒマなんてなくなっていくかな? どっちでもいいな。と思う。



※作者さんつながりで
「DIVE!!」の感想はこちら
「カラフル」の感想はこちら

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